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廃棄物横流し事件|Coco壱番屋の神対応に学ぶ 知らないと怖い3つの廃棄物リスクとその対策
※2016年1月21日執筆時点の情報です。
横流しをした産廃業者への批判的な報道が相次ぐ中、排出事業者である壱番屋へのネガティブな報道は少ないようです。なぜなのでしょうか?こちらのコラムでは、食品会社に限らず廃棄物管理担当者が知るべき事実と企業不祥事を防ぐための対策をご紹介します。
目次
リスク1:信用を揺るがす報道の恐ろしさ
ネガティブ報道を抑えた壱番屋のここがすごい!
壱番屋に対して、ネガティブな報道が少ない大きな要因としては、以下の点があげられます。
- 「通常の流通経路ではありえない商品」が市場に出回っていることに気づき、行動できる
従業員を育成する教育体制。 - パート従業員の通報が、即座に経営陣に届く連絡体制(一般的には、大きな問題が現場で
燻っていてもおかしくありません) - 短期間で情報を集め、すばやく情報公開に踏み切る高いコンプライアンス意識と決断力。
これらが揃い、事後対応や対策も適切に行えた今回の事例は奇跡的と言えますし、やはり壱番屋さんは素晴らしいと言えますね。
マニフェストの記載ミスで悪徳不法投棄企業扱い!?
壱番屋さんのように行き届いた対応ができない場合、メディアのネガティブな報道による大きなリスクがあります。例えばこちらのマニフェストの公布義務違反を犯した事件の報道。
・2014年11月26日、静岡県警は、浜松市職員2人と市を廃棄物処理法違反の疑いで書類送検した。
・送検容疑は、市の事業で出た産業廃棄物を処理する際に、不法投棄を防ぐために公布しなければならない「産業廃棄物管理票」を運搬業者に渡さなかった疑い。
実際にメディアでは上記のように表現されていました。 こんな風に書かれたら、一般の人は「不法投棄をしようとしたのではないか?」と思っても無理はありません。
マニフェストの管理でミスをしてしまっていた場合、「不法投棄を防ぐために使用する産業廃棄物管理票を正しく運用しなかった疑い」などの表記になるのでしょうか?
報道のされ方も非常に重要で、今回の壱番屋のようにネガティブな報道が少ないケースは稀です。排出事業者に廃棄物管理のミスが見つかれば、企業不祥事としての報道がされ、著しい損失を被ることになります。安全面を重視される食品業界では尚のことでしょう。
リスク2:行政指導や罰則の対象!排出事業者の重い責任
上記の神対応によってメディアによるネガティブな報道を最低限に抑えた壱番屋。
ただ、ちょっと待ってください。廃棄物処理法上、本当に壱番屋側に責任はないのでしょうか?
いや、もちろん壱番屋側に、悪意もなければ一般的にイメージされるような過失もないことは報道を見る限り明らかです。 そして、本件ではおそらく排出事業者側の責任が問われることはないだろうと思います。でもそれは、排出事業者側がやるべきことを全て行っていることが大前提であり、そうでなければ、大きなリスクを伴うことになります。
ここでは、非常に厳しく複雑な廃棄物処理法を考えた際に、業者の不正転売や不適正処理が原因で、排出事業者が法的責任を問われるリスクを考えたいと思います。
排出事業者の責任は最終処分まで続く!
上記は、排出事業者の責任を定めた条文です。この条文は、「たとえ業者へ委託した場合でも、排出事業者には最終処分まで責任がある」ということを意味しています。
また、こちらの条文にも排出事業者の重い責任について書かれています。もし委託先の産廃業者で不法投棄等が行われた場合に、委託内容やマニフェストに不備があれば、直接の違反自体は些細なものであっても、不法投棄に巻き込まれて措置命令の対象になる可能性があるということです。
報道を見る限り、廃棄物処理法違反で捜査を受けている処分会社は、コンプライアンス意識に問題があるようですので、適正な委託だったか?と疑われる可能性はあります。
今回の横流し事件は愛知県で起きたものです。愛知県では、排出事業者に対して、収集運搬会社への年1回の実地確認も義務付けている等、全国的にも厳しい条例等が定められています。
業者に騙されてしまった立場でも、排出事業者に求められる厳しい責任を全うしていないと、責任を問われてしまう可能性があるのが廃棄物処理法です。
今回の事件に関しては、食品を横流し・不正転売するのが不法投棄か?と言われると疑問ですが、少なくとも適切な処理でないことは確かです。 そして、ここまで堂々と横流しされること自体が珍しく、コストをかけず不法投棄されてしまう事例の方がスタンダードだと思います。
リスク3:本社管理部の知らない現場のミスが招く企業不祥事
このように多くの責任や義務が課せられている排出事業者。
現場での廃棄物の取扱いを全社的に管理出来ていないと、委託先の産廃業者で不法投棄や不適正処理(また、今回のような横流し等)がなされた際、自社の企業不祥事が発覚するという最悪の事態が想定されます。
企業不祥事は、本社管理部の知らないところで着々と育っているのです。
対策:管理体制構築のために現状を把握する
では、廃棄物管理体制を強化し、企業不祥事を防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?
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- 対策1: 自社に潜むリスクを抽出すること
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- 対策2: そのリスクに対して、適切な是正措置を取ること
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- 対策3: 措置内容を全社に浸透させること
簡単に言ってしまうと以上の3ステップです。まずは、自社に潜むリスクを抽出しましょう。
以下に、確認すべき基本的なリスクポイントを上げました。
各拠点でチェック!リスクポイント
①委託基準(委託契約書の締結・許可証の確認)
□ 許可証の有効期限・品目・処分方法は適切か?
□ 契約書は法定記載事項に従って記入されているか?
②マニフェストの運用(交付~保管まで)
□ 返送期限内にB2・D・E票などが返送されてきているか?
□ 紙マニフェストは5年間保管しているか?
③処分先の確認(実地確認、書類などでの定期調査)
□ 年に一度、処分先を実地に確認しているか?
□ 基準を設けて一定レベルの確認を実施しているか?
□ 処分施設での保管量は適切か?
上記は、本来なら当然のように行われるべきことのごくごく一部です。ただ基本的なことだとしても、現場での抜け漏れは、往々にして起こっています。
これを機に、廃棄物管理体制の見直しを強くおすすめいたします。
Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。