- その他
処理委託した廃棄物の責任は、永久に続く? ~排出事業者責任に時効はあるのか?~
「委託した産業廃棄物の排出事業者責任は、どのタイミングになったら“全うした”と言えるのか?マニフェストのE票が返ってくればよいのか?」
こうした質問は各地でセミナーや研修を行うと、必ずと言っていいほど頂きます。
「廃棄物管理のリスク」を重点的にお伝えするため、ご自身の業務を振り返って心配になってしまうということだと思います。これはリスクについてご理解いただけた結果として捉え、講師としてはとても嬉しく思います。
ただ、残念なことに、冒頭の質問にお答えするとなると、「委託した廃棄物に対して、絶対に排出事業者責任が追求されないという安全圏は理論上存在しない」としか言いようがないのです。
不法投棄には時効があるか?
「犯罪」には「時効」があると一般的に言われています。では、不法投棄や不適正処理には時効があるのでしょうか?
そもそも、「時効」とは何でしょうか?
一般的に使われている「時効」という言葉は「公訴時効」と言って、刑事事件に関して、検察官が容疑者を起訴することができる期限のことを言います。(以下、時効=公訴時効として記述します)
例えば、ある人物Aが窃盗を行ったとすると、警察が逮捕し、検察が捜査・起訴し、起訴された事件に対して刑事裁判が行われ、有罪となれば刑事罰が課せられる。というのが、大まかな流れです。
「時効」によって、ある一定期間が経過すると検察が起訴できなくなります。
すると、後の裁判も行われないため、刑事罰が課せられることはありません。起訴の前工程である警察も、「逮捕したところで起訴されないことが決まっている」ので「時効」成立後は捜査しません。
結果として、時効成立以降は過去の犯罪行為に対して逮捕されることが無いので、一般的には「時効が成立すれば罰せられない」という意味で捉えられています。
時効は刑事罰の罰則によって期間が決められています。
例えば、ある中間処理会社Xが排出事業者から受託した廃棄物を山奥に不法投棄していたとします。不法投棄は「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金又はこの併科(法第25条 第1項)」です。この場合、時効は5年です。
廃棄物処理法上、最も重い違反であっても時効はたった5年です。筆者の感覚では短いと感じますが、皆さんはどう思われますか?
5年経てば安心なのか?
廃棄物処理法の違反にも時効が適用されることがわかりました。では、委託した廃棄物は、(E票などが期限内に返送されていることなどは大前提として)委託後5年経過して何事もなければ絶対安全ということなのでしょうか?
いやいや、そういった事はありません。
時効が成立するのは刑事罰に対してです。5年以上経過している場合、不法投棄した中間処理会社X(及びその役員や従業員等)が廃棄物処理法違反(不法投棄)で刑事罰を課せられることはありません。
この不法投棄事件に関連して、排出事業者側にマニフェストや委託契約書の不備があったとしても、時効として違反に問われない可能性があります。マニフェストに関する違反や、契約書に関する違反(委託基準違反)の時効は3年です。
※委託契約書は、契約期間終了(解約)から3年経過していることが必要です。
しかし、排出事業者が不法投棄に巻き込まれた際に、最も大きなリスクは「措置命令」によって不法投棄の原状回復もしくは原状回復に必要な費用の負担を命じられることです。
廃棄物処理法では第19条の5、6にそれぞれ措置命令の対象が示されています。
措置命令とは、行政処分の一種であり、刑事罰とは異なるものです。では、行政処分には時効に当たるものは無いのでしょうか?
行政処分の指針について(通知)には、「犯罪に対する刑罰の適用については公訴時効が存在するが、行政処分を課すに当たってはこれを考慮する必要はないこと。」と記載されています。
詳しくはこちら(行政処分の指針について/環境省)
はっきりと、行政処分について時効はないと明記されているのです。
そのため、もし不法投棄の実行から5年以上経過して発覚し、その不法投棄に自社が巻き込まれていたことが発覚した場合には、実行犯に刑事罰は課されませんが、排出事業者には“措置命令が下る可能性がある”というなんともやりきれない状況になるのです…。
※不法投棄の実行犯も当然措置命令の対象になりますが、原状回復の履行をする資力がないことがほぼ確実なので、あまり意味がありません。
大原則に立ち返って責任を全うする
廃棄物処理と時効の関係について整理してきました。最終的には「刑事上の時効はあるが、行政処分である措置命令に時効はなく、排出事業者責任に明確な終わりはない」ことが分かりました。
廃棄物の不法投棄は、広範囲に長期的な影響を及ぼします。
その他の罪を軽んじるわけでは決してありませんが、環境関連法の違反は公共性が強く、決して当事者のみに留まることではありません。そのため、ある時点で責任を負う対象がいなくなってしまうことはあってはならないのです。
不法投棄を原因に、全く関係のない多くの一般人が生活環境上の支障によって被害を受けたり、またその対策のために税負担を強いられたりするのは、排出事業者が措置命令を受けること以上に理不尽な話です。
『汚染者負担の原則』という考え方があります。環境に影響を及ぼす汚染物質は、その排出源がその損害に対する費用を支払うべきという考え方です。
廃棄物処理法の排出事業者責任も、その根本は同じではないでしょうか?
厳しいことではありますが、自社が排出する廃棄物に関しては、どのような手段を持ってもその責任から逃れることはできません。
排出事業者としての責任を全うするには、適正な費用を負担し、定められた委託基準を遵守し、実際の処理が適切に行われているか目を配り続けるという、基本的なことを徹底することしかありません。
まずは、措置命令の対象になるような不備がないか?委託契約書やマニフェストのチェックから始めてみてはいかがでしょうか?
Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。