- 委託契約書
契約書はお互いに原本を持たなければならないの?
産業廃棄物を処理委託する場合には、委託契約書の締結が必須です。
電子化も可能ですが、まだまだ紙ベースでの締結が主流ですね。
さて、今回のテーマは「契約書はお互いに原本を持たなければならないの?」です。
排出事業者×収集運搬業者、排出事業者×処分業者と、委託契約書は原則2者契約ですが、2部作成し、2部ともにお互いが印紙を貼付し、押印するというのが一般的ですね。
「これ、本当に2部必要なの?」という疑問にお答えします。
契約書締結って、そもそもどんな義務なの?
一般的な契約は、書面としての「契約書」作成が必ずしも義務ではありません。「契約自由の原則」という民法上の基本原則があります。
・契約締結の自由:そもそも契約を結ぶかどうかの自由
・相手方選択の自由:どのような相手と契約を結ぶかについての自由
・内容決定の自由:どのような内容の契約を結ぶかについての自由
・方式の自由:どのような方式で契約を結ぶかについての自由
この「契約自由の原則」によって、民×民の契約はかなり自由度が高い状態になっています。
しかし、「一般的な契約」の話です。
廃棄物処理法では、「契約自由の原則」を一部制限する内容が規定されています。
同様に「方式の自由」では、「そもそも書面でない方式で契約する」ということも認められています。
口頭での合意を契約としても良いですし、契約内容を話している様子を動画に撮ってもOKなんです。
「内容決定の自由」については、「法定記載事項」と呼ばれる、「必ず明記しなければならない内容」が決められています。
そのため、「法定記載事項」は「内容決定の自由」に関わらず記載する義務があり、それ以外の内容についてのみ自由となります。
しかし、廃棄物処理法では書面による締結が義務付けられています。
廃棄物処理法施行令第6条の2第4項
委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。
そのため、必ず書面で締結しなければならないということになっているのですね。
(e-文書法における電子化の要件を満たした電子契約を除く)
書面での締結は誰の義務?
書面での契約が義務であることは分かりましたが、ではそれは誰の義務なのか?というと「排出事業者」の義務です。
廃棄物処理法第12条第6項
事業者は、産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。
この「政令で定める基準」の一つが、先程ご紹介した「書面での締結」です。
大本の条文は主語が「事業者」となっており、廃棄物処理法上で「事業者」は、排出事業者のことを指します。
書面での契約締結は排出事業者の義務です。ということは、収集運搬業者、処分業者には「書面で締結する義務はない」ということになります。そして、排出事業者には「書面で締結する」ことが義務付けられていますが、「相手の分まで作る」ことを義務付けるような条文はありません。
ですから、運搬業者、処分業者に関しては、契約書を必ずしも書面で持っておく必要がないと言えます。
ちなみに、法律上といえば、罰則も排出事業者のみです。収集運搬業者、処理業者には契約せずに、産業廃棄物を受託した場合の罰則がありません。だからといって、未契約で受託する業者さんはいないとは思いますが…
ということで、基本的に契約書を締結する主体は排出事業者です。ですから、排出事業者は必ず原本を持ち、運搬業者、処理業者はコピーでも問題はないのです。もちろん、お互いが原本を持つことも問題ありません。
高額の取引であるほど、印紙額も多く業者さんとしては印紙が負担になる場合もあります。そんな場合に「1部コピーで…」という提案をされる場合があるかもしれません。法律上は問題ないということを加味しつつ、ケースバイケースで検討しましょう。
Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。