- ニュース解説
過剰な経費削減がリスクになった典型例
廃乳7トン不法投棄 元副場長に有罪判決 神戸地裁
R牧場の敷地内に商品化できない牛乳約7トンを不法投棄したとして廃棄物処理法違反の罪に問われた元副場長に対し、神戸地裁は27日、懲役1年2か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。裁判官は「六甲山の地下水や河川、瀬戸内海を汚染する恐れがあり、刑事責任は重い」と指摘。
牧場を運営するK公社職員の被告は2016年4月~2018年8月、同罪で起訴された別の元副場長らと共謀し、食品に加工できない牛の乳計7トンを288回にわたり牧場の土中に流した。廃棄した牛乳は当初、浄化槽に流していたが、排水が基準値を超え、2015年に市から改善勧告を受けた。浄化槽の保守管理の責任者だった被告は「公社に廃棄乳を産業廃棄物として処理する経費がない」と判断。部下らに土中への廃棄を指示した。
弁護側は牧場長ら上司は実務に疎く、被告が一人で市との均衡を担っていたとし、「経費削減を方針とする公社との間で板挟みになった」と主張。公社には禁固刑以上で懲戒解雇になる就業規則があり、被告を慕った職員らから刑の軽減の嘆願書が集まっているとして、罰金刑を求めていた。裁判官は「上司がお飾り的存在だったのであれば、被告は廃乳を適正に処理して六甲山や瀬戸内海の環境を守る、とりでであった」と指摘。「不法投棄は詐欺的行為で懲役刑の選択は免れない」とした。
毎日新聞(
こちらは、牧場で発生した廃乳を敷地内で土中に流し不法投棄した件に関して、元副場長個人に有罪判決が下ったというニュースです。こちらの事例の問題点を整理していきましょう。
不法投棄のリスクを自分ごととして理解できていたか?
たとえ自社敷地内であったとしても、土中に廃棄物を流すというのは明らかな不法投棄です。おそらく、この元副場長も不法投棄であることを理解したうえで行っていたのではないでしょうか?
「産業廃棄物として処理する経費がない」
「経費削減を方針とする公社との間で板挟みになった」
これらの表現は、本来であれば産業廃棄物として処理すべきだと分かっているにも関わらず、適切ではない廃棄方法をとった自覚があることが伺えます。
しかし、個人に対する有罪判決や、(執行猶予付きとはいえ)懲役刑となってしまうことまでは、想像できていなかったかもしれません。
廃棄物処理法違反の責任は原則、実行行為者本人ですが、「両罰規定」によって法人にも監督責任が問われる場合があります。決して法人だけの責任ではありませんし、まず個人、次に法人という順番を把握しておく必要があります。不法投棄についての個人に対する罰則は「5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又はこの併科(廃棄物処理法第25条第1項)」です。
いくら会社から経費削減を命じられていたとしても、自身にこれほど重い罰則が課されると分かっていれば、不法投棄を実行することはなかったかもしれません。
組織はリスクを把握できていたのか?
不法投棄リスクに対する個人の認識に問題があったと考えられる今回のケースですが、さらに大きな問題は、組織としてリスクを把握できていなかった点です。
「上司がお飾り的存在だったのであれば、被告は廃棄乳を適正に処理して六甲山や瀬戸内海の環境を守る、とりでであった」と裁判官が指摘しています。裁判官に「お飾り」とまで言わしめるほど、組織のコンプライアンス意識には問題があったと想像します。「被告は~~~、とりでだった」とも言われていますが、上司、会社に理解されない中で、その責任を一身に背負えというのは、不条理を感じざるを得ません。
また、元副場長も、部下に「何とかしておくように」と指示だけして丸投げすることもできました。そうすれば、部下の責任になるのでしょうか…?
コンプライアンスは全従業員の知識定着が絶対条件
今回の一件から、廃棄物処理のコンプライアンス徹底のためには、個人の意識のみではなく、組織全体の意識が不可欠だと感じます。組織全体の意識というのは、全従業員それぞれの「知識」が前提にあります。実務担当者が適切な判断をしても、上司や組織の方針がコスト偏重では実際の行動は適切なものにはなりません。反対に、組織が適切な管理を求めていても、現場が知識不足による誤った判断で不適切な行動を起こす事例も多々あります。
コロナショックと言われる今だからこそ、適切な知識を浸透させ、「コスト偏重によるリスク」を回避する必要があるのではないでしょうか?
Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。