- 法改正
溶接ヒューム規制③
~マスクの選定とフィットテスト編~
前回のコラムでは測定によって0.05mg/m3以上となった場合は、対策を講じなければならないことを解説しました。
今回は、主な対策として呼吸用保護具(マスク)の選定とフィットテストについて解説します。
装置の風量増加など、必要な措置
濃度が基準を超えた場合の措置については、「換気装置の風量増加」が主な内容として示されていますが、例えば以下の対応も有効とされています。
・溶接方法や母材、溶接材料等の変更による溶接ヒューム量の低減
・集じん装置による集じん
・移動式送風機による送風の実施
これらの対策を行ったうえで、最終的に判明した濃度を元に呼吸用保護具(マスク)の選定をします。
マスクの選定
マスクは、濃度測定の結果、マンガン濃度の最大値(C)を0.05で割った値を「要求防護係数」として、要求防護係数を満たすマスクを選びます。
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
濃度測定時には0.05mg/m3未満を目標に対策をして、測定していましたから、対策が十分であれば要求防護係数は1未満になります。このレベルなら、使い捨て防塵マスクでも十分に基準を満たします。
一方、対策が難しく、どうしても測定濃度が高くなってしまう場合は、要求防護係数が1以上になります。
マスクは、種類と製品規格によって、防護レベルがランク付けされています。
商品に、RS3などの区分が表示されているはずです。区分に応じて「指定防護係数」が定められており、この係数が「要求防護係数」を上回るように、マスクを選ぶ必要があります。
指定防護係数一覧
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
フィットテストの実施
フィットテストとは、マスクが適切に使用できているかの確認作業です。
どれだけ高性能なマスクを使用しても、顔とマスクの間に大きな隙間があれば意味がありません。しっかりとマスクがフィットしているかをテストするのが「フィットテスト」です。
方法は、JIS T8150で定められています。具体的には、マスクの外側と内側の濃度測定を実施し、以下の計算式により「フィットファクタ」を求めます。
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
フィットファクタが、「要求フィットファクタ」を上回っていればOKです。
要求フィットファクタ
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
濃度を測定する方法は「定量的方法」と言われています。専用の測定機も売られていますので、詳しい測定方法は測定機のマニュアルなどを確認してください。
JIS T8150には「定性的方法」も記載されています。密閉したフードの中に甘味料である「サッカリンエアロゾル」を噴射して、本人が甘みを感じるかどうか、といったテストを行います。定性的方法についても、専用の測定キットが市販されています。
健康診断の実施義務
溶接ヒュームを取り扱う作業に常時従事する労働者にたいしては、健康診断を受診させる義務があります。
測定期間は6ヶ月以内ごとに1回(1次健診)です。健診の結果、症状が認められた場合など、医師が必要と判断した場合にはさらに規定の事項について追加の健診を行います(2次健診)。
それぞれの健診項目は表の通りです。
溶接ヒュームの健診項目
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
健康診断の結果は5年間の保存が必要です。
その他の措置
その他にも、様々な措置が必要とされています。溶接作業は、様々な職場で行われる可能性があり、決して珍しい作業ではありません。しかし、近年の規制強化による対応が決して十分とは言えない職場も多く、早急にこれらを完了させることが求められています。
その他必要な措置
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=542)
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Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。