水質汚濁防止法~必要な届出を整理する~

水質汚濁防止法<br>~必要な届出を整理する~

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水質汚濁防止法
~必要な届出を整理する~

水質汚濁防止法に関する質問や問い合わせの中で、特に多いのが、「自社で所有する施設が届出対象の施設に該当するかどうか」というものです。これは、設置予定の施設に関する質問だけでなく、既に設置・稼働している施設についても、「改めて考えたときに届出対象なのかどうか」と確認されるケースが非常に多く見られます。

そこで今回は、届出対象の施設要件を再整理し、必要な届出について確認していきます。

届出対象である【特定施設】とは?

水質汚濁防止法で届出が必要なものとして、まず思い浮かぶのが特定施設です。特定施設は、水質汚濁防止法で定められた「業種」と「施設の種類」に該当するものが指定されています。
例えば「金属製品製造業」における「廃ガス洗浄施設」のように、「業種」と「施設の種類」の両方が該当した場合に特定施設となります。
単純に施設の種類が該当していたとしても、それだけでは特定施設とはみなされません。業種と施設の種類が揃って該当した場合にのみ、特定施設の対象となることに注意してください。

この特定施設を設置する場合、設置届が必要となります。
具体的な対象設備は以下のURLをご参照ください。

出典:浜松市「水質汚濁防止法 特定施設一覧」
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/6505/201802.pdf

有害物質使用特定施設/有害物質貯蔵指定施設とは

続いて、有害物質使用特定施設と有害物質貯蔵指定施設についても確認していきましょう。特定施設の中でも、指定された有害物質を使用する施設や、その有害物質を貯蔵する施設については、排出水による汚染に加え、施設自体から有害物質が漏洩し、地下に浸透するリスクがあります。
有害物質が地下に浸透してしまうと、土壌汚染や、それを通じた地下水の汚染につながります。そのため、有害物質の地下浸透を防止するための規制が設けられています。

ただし、有害物質使用特定施設については、そもそも特定施設としての届出や許可の対象となっています。そのため、別途追加の届出等は必要ありません。

一方、有害物質を貯蔵する施設は特定施設に該当しませんが、その代わり指定施設としての届出が必要です。


(図1)出典:東京都環境局「水質汚濁防止法に基づく届出について」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/pollution/regulation/400300a20180322151431624

有害物質貯蔵指定施設とは、有害物質を含む液体を貯蔵し、地下に浸透する恐れのある施設と定義されています。
例えば、薬品をタンクなどに保管している場合が、「有害物質貯蔵指定施設」に該当します。このような施設には、地下浸透防止の観点からの規制が適用されます。

ここで、貯蔵“施設”の定義についても確認しておきます。例えば、ドラム缶やポリタンクのように簡単に移動できる容器で保存している場合、それは施設には該当しません。そのため、届出は不要です。
ただし、ドラム缶を固定し、配管に接続するなど、簡易的であっても固定設備として扱われる場合には、貯蔵施設に該当します。この点は重要な判断基準となるため、注意が必要です。

(図2)出典:環境省「2.1 有害物質使用特定施設」
https://www.env.go.jp/water/chikasui/brief2012/manual/div-main-2.pdf

各種届出の種類について

「特定施設(有害物質使用特定施設)」と「有害物質貯蔵指定施設」の2種類が、大きく分けて届出の対象となることがお分かりいただけたと思います。それでは、これらの届出の種類についても確認していきます。
もちろん、設置時に届出が必要であることは間違いありません。しかし、施設の変更など、その他にも必要な届出がありますので、注意が必要です。

表に必要な届出の一覧をまとめています。
基本的には、「設置届」と「構造等の変更届」が主な届出として挙げられます。2つの届出は、設置、変更それぞれの60日以上前に提出しなければなりません。

該非判断のポイント

届出対象施設の整理ができたところで、対象施設に該当するかどうか、つまり該非判断についてのポイントをお伝えしていきます。しかし、残念ながらこの該非判断については、管轄行政の見解に依存する部分が多く、明確な判断基準を提示することが難しいのが実情です。

例えば、よくある質問として、以下のようなケースがあります。

①研究施設のドラフトチャンバーの場合、水を全く排水系統に流さないが、これが届出対象となるのか?
②施設自体は該当するが、業種が該当しない場合に、届出が必要か?

①のケースを法律上の原則に基づいて判断すれば、排水が発生しないドラフトチャンバーは、届出対象施設とならないと解釈される可能性が高いです。しかし、管轄行政によっては、対象となる有害物質を扱う場合には念のため届出を行うよう指導するケースもあります。実際に、いくつかの行政への聞き取り調査でも、このような見解が確認されています。

また、②のケースも業種の基準に該当しない場合でも、施設の構造が届出対象施設と同じだと、届出を求められる可能性があります。このように、法律上の解釈だけでは対応が難しい場合もあるため、迷った場合には最もリスクの少ない選択肢を選ぶことが重要です。
それでも明確な判断がつかない場合には、管轄行政に相談するのが、現実的で確実な方法といえますね。

なぜ、未届の施設が発見されるの?

最後に、よくある問い合わせの一つとして、施設がすでに稼働しているにもかかわらず、届出が行われていないケースが散見されるという事実についても触れておきたいと思います。

こうした状況が起こる理由の一つに、設備部門や製造部門が水質汚濁防止法に関する予備知識を持っていないことが挙げられます。多くの場合、これらの部門は新しい設備を稼働させることや、設備の不具合を修理・更新することに関心が集中しています。その結果、「この設備には届出が必要かもしれない」という視点が欠けてしまうのです。
そのため、環境部門が知らないうちに届出対象の設備が更新されていたり、小規模な施設が新たに設置されていたりすることが起こり得ます。

では、これを防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?重要なのは、「届出対象となる可能性」を、全社的に周知することです。
実務部門が完璧な判断を下せなくても構いませんが、最低限何らかの設備を設置する際には、水質汚濁防止法の届出が必要かもしれないと考え、必ず環境部門に確認を取る手順を定着させることが重要です。
その後、環境部門が適切に判断を行い、必要に応じて管轄行政に相談する流れを確立することで、未届けのリスクを軽減することができます。

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。