有害物質使用職場の掲示 改正対応をチェック

有害物質使用職場の掲示 改正対応をチェック

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有害物質使用職場の掲示 改正対応をチェック

職場で化学物質を使用する場合「有害性の掲示」が必要な物質があります。この「有害性の掲示」について、昨年から段階的に改正されていることはご存知でしょうか?改正内容は大きく分けて「掲示対象物質の拡大」と「掲示内容の見直し・追加」で、令和5年10月1日から掲示義務がすべての特定化学物質に拡大しました。

施行から1年が経とうとしていますが、適切に改正対応できている職場ばかりではないと感じています。作業員などに有害性等を周知するための有害物質の掲示義務について、再度確認しておきましょう。

掲示対象物質の拡大

2023年10月1日から、掲示対象物質が拡大しています。従来は、特定化学物質障害予防規則(特化則)に規定されている「特別管理物質」が対象でした。改正によって、特別管理物質のみから「特定化学物質」のすべてが対象になりました。
「特別管理物質」は「特定化学物質」の中でも、がん原性(疑いのあるものを含む)のある物質のことです。リスクアセスメントに加え、作業環境測定の結果や作業記録等の30年間保存を義務づけるなど「特定化学物質」よりもさらに厳しい規制が行われています。

図1:作業場への有害物質情報の掲示義務

この改正により、特別管理物質に該当しない特定化学物質を使用する職場では、新たに掲示を行う必要があります。

掲示内容の見直し・追加

掲示内容についても、改正が行われています(2023年4月施行)。
例えば「特定の有害物の人体に及ぼす影響」が「特定の有害性により生じる恐れのある疾病の種類及びその症状」と改められています。より内容が具体化されていますね。

また「保護具を着用しなければならない旨」が追加されています。
有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、石綿障害予防規則に加えて、労働安全衛生規則(ダイオキシン類関係)、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、粉じん障害防止規則においても同様の規定が設けられており、それぞれの表記に微妙な差異はあるものの、基本的に掲示内容については共通と言えます。

下記に労働基準監督署が公開している掲示内容の見本(図2)を示します。想像以上に細かく書かれていると思われるかもしれません。改正内容を反映し、必要項目を漏れなく記入すると、そのボリュームは決して小さくありません。そもそも「特定化学物質」は特化則で指定されているほどのものですから、様々な注意事項が存在するのがスタンダードです。


図2:掲示物の作成例

掲示方法の変更も可能に

対象物質が増え、記載内容はより具体化され項目も追加されている…。こうした改正内容を受けて「掲示スペースが足りない」という相談も受けています。特に研究施設などでは様々な薬品を取り扱うため掲示対象物質も多く「壁一面に貼り付けてもスペースが足りない」ということもあり得ます。

こうした場合は「デジタル掲示」が有効です。対象物質の拡大と同時に「作業場の掲示方法を柔軟化」する改正も行われています。従来は原則掲示板での掲示が求められていましたが、「作業場において作業に従事する者が作業中容易に確認できる方法」であれば、方法限定せず柔軟に対応可能となりました。

図3:掲示方法の柔軟化

具体的には「デジタルサイネージ」など、デジタル技術を活用した掲示が挙げられます。デジタルサイネージとはいわゆる「電子掲示板」のことです。

大型の駅やショッピングモールなどで、広告が次々と表示されるディスプレイを見たことがある方も多いと思います。こうした技術を使用すれば、作業場にディスプレイを1台設置し、対象物の掲示内容を次々と表示させることで掲示義務をクリアすることができます。

デジタルサイネージはあくまで一例です。イントラネット経由で有害性情報をデジタル保存し、作業時は各自PCからアクセスする…という方法でも条件はクリアしていると考えられます。

ポイントは「すべての者」と「容易に」という部分です。同じデジタル保存でも「管理者のPCにしているので、他のPCでは開けない」という状態では条件は満たしません。また「安全な作業を行うため」という目的を考えれば「即座に」という条件も加えたいところです。

掲示内容には「応急措置」も含まれています。例えば「作業者同士がぶつかり、持っていた薬品が手にかかってしまった」という状況を想定してみてください。すぐに水で洗い流したくなりますが、薬品の中には水と激しく反応し発熱や刺激性のガスが発生する物があります。かといって、応急措置の方法を確認するまでに何分もかけていられません。そのため「即座に」掲示内容が視認できる状態を作る必要があります。

トラブルが起こってから、PCを開き、保存場所にアクセスして…という手順を踏んでいては不十分です。少なくとも、対象薬品を使用する際には掲示内容を開いたPCを隣に置き、表示しながら作業をするなどの対応が必要です。
このように「特定化学物質」の作業場掲示は、対象物質の拡大や、掲示内容の具体化・追加といった規制強化と、掲示方法の柔軟化という規制緩和が同時に行われています。両面を適切に理解し、安全を確保しながら効率的な運用を検討しましょう。

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。