消防法の基礎~危険物等、それぞれの定義と保管基準を適切に理解する~

消防法の基礎<br/>~危険物等、それぞれの定義と保管基準を適切に理解する~

コラムCOLUMNS

  • その他
                 

消防法の基礎
~危険物等、それぞれの定義と保管基準を適切に理解する~

消防法では発火性や引火性のある危険物を保管する際に規制がかかります。これらの保管基準は、事業所の従業員全員が理解していなければなりません。なぜなら、保管基準などの消防法は従業員の命や会社の資産を火災から守るための最低限のルールだからです。

製造現場や保管場所などを実際に監査してみると「事業所内の一部門で購入した薬品などの資材が危険物に該当し、管理部門の知らぬ間に指定数量を超過している」というようなケースも珍しくありません。工場火災で犠牲者が発生した場合など、法令違反があると工場の責任者に重い刑事罰が科されることもあります。危険物など規制対象物質の保管に絞って、基本的な内容を整理していきます。

消防法の目的

消防法は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護することを目的にしています。さらに、火災または地震等の災害に因る被害を軽減するなど安寧秩序の保持や社会公共の福祉の増進に資することを法の目的としています。

危険物・消火活動阻害物質・指定可燃物

危険物

危険物とは、発火点や引火点が低いなど火災発生の危険性が高かったり、発生時に火災を拡大したりするもの、消火の困難性が高いといった性状を有するものを指します。火が付きやすい、燃え広がりやすい、消えにくいというものをイメージすれば、なんの制限もなく多量に保管することは危険だとご理解いただけると思います。

危険物には第一類~第六類まで区分されており、それぞれの特徴があります。例えば、第四類はガソリンやアルコールなどのように火が付きやすい「引火性液体」、第五類は、衝撃や摩擦などをきっかけに発火や爆発の可能性がある「自己反応物質」です。危険物の具体的な対象は、消防法の別表第1(表1)に列挙されている通りです。危険物は、後に説明する指定数量以上保管すると許可が必要になるなど、厳しく規制されています。

表1:消防法別表第1

出展:総務省消防庁(https://www.fdma.go.jp/about/question/cat4#124

消防活動阻害物質

消防活動阻害物質は、対象物自体が高い発火性や爆発性を持っているわけではありません。別の原因で火災が発生してしまった際に、消火活動を阻害してしまう恐れがある物質が指定されています。

例えば、硫酸は加熱すると刺激性の有毒ガスが発生します。火災発生時には、この有毒ガスが発生し、消火隊が近づけなくなる可能性があります。これによって消火活動を阻害してしまうというわけです。消防活動阻害物質は、圧縮アセチレンガスなど4物質の他、消防法危険物例別表1、2に列挙する毒物、劇物が指定されています(表2)。

表2:消防活動阻害物質

参考:総務省消防庁(https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento211_12_sankou1-4.pdf

消防活動阻害物質は、物質毎に定められた数量以上を保管する場合には、管轄の消防長又は消防署長への届出が必要です。市町村の条例もチェックする必要があります。

指定可燃物

一定以上の量の古紙や木くず、繊維くずなど可燃物の保管場所に「指定可燃物」という掲示板があるのをご存じの読者も多いと思います。指定可燃物とは、単純に「燃えやすいもの」として指定されているものです。紙類や、わら、石炭・木炭、プラスチック類など、様々な燃えやすいものが対象物となっています。指定可燃物の一覧は、消防法危険物政令別表第4に列挙されている通りです。

近年では、廃プラスチックのリサイクル工場での火災事故が多く報道されています。プラスチックという非常に燃えやすいものを多量に保管する事業場で火災が発生した場合、何日間も鎮火せず、激しく燃え続けるというケースも珍しくありません。指定可燃物は火災の直接原因にはなりにくいですが、火災が発生した際に規模を拡大するリスクを持つものとイメージしておくと良いですね(図1)。

図1 指定可燃物の例 

参考 岡山市消防局消防総務部予防課 危険物保安係(https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000021613.html)

指定数量とは

消防法で規定される危険物・消火活動阻害物質・指定可燃物のうち、「危険物」と「指定可燃物」は、指定数量を保管量の基準として考えます。では、指定数量とはなんでしょうか?

危険物を一定量以上取り扱う事業場は、管轄する都道府県知事や市町村長等の許可を受けなければなりません。許可を受けるには、技術上の基準を満たしている必要があり(製造・保管・取り扱いなどそれぞれ基準が異なります)、基準をクリアしない場合はもちろん許可は下りません。

さらに、危険物取扱者の設置も必要です。危険物取扱者は、有資格者を選任する必要があり、全ての危険物を対象とした甲種と一部の危険物に限定された乙種があります。

許可不要の上限を指定数量といいます。例えば、重油の指定数量は2,000Lです。2,000L以上の重油を保管する場合には、事前に許可が必要だということですね。ただし、重油だけの数量をチェックしていてはいけません。指定数量は対象の危険物をすべて合わせて判断します。重油が200Lある場合には、指定数量の10%です。ガソリンが180Lある場合には、指定数量が200Lなので、90%を使用しています。2つを合わせると100%になるので、指定数量の上限に達してしまいます。具体的には図2のように計算をしていきます。


図2:指定数量の計算イメージ

保管する危険物の合計が指定数量以上かを判断するという基準となっているため、事業場の全従業員が危険物に関する基礎知識をつけていなければならないのです。

一方、危険物の中には、極端に指定数量の少ない物質もあります。例えば、ナトリウムの指定数量は10kgです。重油の200倍も厳しい条件といえます。指定数量で考えると、ナトリウムの薬品ビン1本500gは重油100Lと同等なのです。

そのため、実務部門は「ほんの少し薬品を買っただけ」と思っていても、指定数量に与えるインパクトは大きく、いつの間にか指定数量以上保管している…といった事態がしばしば起こりえるのです。また、指定数量未満の保管量であったとしても、その5分の1以上保管をしている場合には、少量危険物の保管とみなされ条例による規制が適用されます。

少量危険物を保管する場合の規制については管轄する市町村によって多少異なりますが、多くの場合は、届出が必要となります。指定数量以上の場合は、消防法による事前の許可申請が必要ですが、少量危険物の保管は条例による届出をします。

市町村条例

最後に市町村条例についても簡単に説明します。消防法の規制を確認する上で、市町村条例のチェックは絶対に欠かせません。

これは消防法という法律のつくりが関係しています。例えば、廃棄物処理法など消防法以外の法律を見ると、法律、施行令、施行規則、告示などが定められ、日本国内全域に規制がかかります。基本的には、これで規制は完結します。地方自治体の条例は、一般的に上乗せ・横出し規制と呼ばれ、法令の規制に対していわばプラスアルファの規制をかけています。しかし、消防法は少し異なった規制体系になっているので注意が必要です。

消防法の中には、「~~~のために必要な事項は、市町村条例で定める」という条文が度々登場します。これは、全国規模の法令では詳細を定めず、市町村条例にその役割を「委任している」ということを意味します。先に解説した少量危険物保管の基準も、市町村条例に委任している内容の一つです。従って「管轄する市町村によって基準が異なる」ことが前提となります。管轄市町村によって細かな規制が異なることを前提に、必ず管轄する自治体のHPなどで確認をしましょう。

Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー

セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。