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注目度が高まるPFAS(ピーファス)廃棄時の適切な取り扱いは?
最近、PFAS(ピーファス)に関する報道が増えているように感じます。様々な地域で、「地下水や水道水源などから検出された」と発表され、世間一般の注目度がじわじわと高まっている感触があります。
PFASを製造工程で使用する業種は多くありません。多くの業種でPFASを取り扱う可能性が高いのは、泡消火剤です。PFAS含有(またはその疑い)の泡消火剤廃棄に関する相談は何度も受けています。そこで、PFASの基本情報と泡消火剤を中心としたPFAS廃棄物の取り扱いについて整理しておきましょう。
そもそもPFASとは?
PFASとは、「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総体」のことで、有機ふっ素化合物全般を指します。細かく分ければ、12,000種類以上あると言われています。
PFASの中には水や油をはじく撥水・撥油性、熱・化学的安定性等のすぐれた物性を示すものが存在するため、そのような物質は日用品や繊維製品含め幅広く利用されています。例えば、防水加工のカーペットやカーテン、登山用品、こげないフライパンのテフロン加工もPFASでした。
ふっ素と炭素が強力に結合されているため、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは、自然界での分解が非常に遅いといわれています。そのため地球規模で環境中に蓄積され、食物連鎖や飲料水汚染などを通じて人の健康や動植物の生息・生育に影響を及ぼす可能性が欧米や日本でも指摘されています。このように難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があるため、近年、PFOSやPFOAなどは世界的に問題になっているのです。
人の健康リスクでは、発がん、免疫系およびコレステロール値の異常などとの関連が報告され、体内に継続的に摂取する場合には人の健康を損なうおそれがあるとされます。健康影響が懸念されるため化審法に基づきPFOS は 2010 年、PFOA は 2021 年に、それぞれの製造・輸入等を原則禁止しています。また「PFHxS若しくはその異性体又はこれらの塩」は2023年11月28日に第一種特定化学物質に指定され、2024年春以降から製造・輸入等が原則禁止になります。第一種特定化学物質とは、難分解性、高蓄積性及び人又は高次捕食動物への長期毒性を有する化学物質です。
以下、このコラムでは、特段の区別が不要な場合は、PFASの中でも健康影響が懸念される物質として「PFOS等」と表記することにします。
廃棄物処理法とPFOS
廃棄物処理法におけるPFOS等の取り扱いについて考えてみましょう。現時点において、PFOS等含有廃棄物が発生するケースの多くは、泡消火剤そのものを廃棄する場合です。
2010年10月に、PFOS等含有泡消火剤は製造禁止となりました。しかし、使用自体は禁止されておらず、泡消火剤の使用期限が10年前後であることが多いため、PFOS含有泡消火剤の廃棄は、現在でも発生しています。世間的な注目の高まりや、規制強化の機運が高まっていることから、PFOS含有泡消火剤を廃棄する際に、より慎重になる事業者が増えたように感じます。
しかしながら、廃棄物処理法ではPFOS等に特別な規制をかけていません。特別管理産業廃棄物(特定有害産業廃棄物)の対象となる物質には、「ふっ素及びその化合物」のようなPFOS等を示す物質は指定されておらず、法律上の区分は、普通産廃の汚泥または廃酸・廃アルカリ(性状によって判断)となります。
とはいえ、何も検討せず普通産廃として排出して良いわけではなく、排出事業者には「適正処理に必要な情報提供の義務」があるので、PFOSが含有していることを処理業者に伝達した上で適正処理を委託する必要があります。
なお、定期的な消火訓練で使用した泡消火剤の廃液は油水分離槽を経て、油分は廃油、沈殿した底泥は汚泥の扱いになります。底泥に油分が5%以上あれば廃油と汚泥の混合物として処理します。
情報提供義務の重要性については「利根川水系ホルムアルデヒド事件」が典型的なケースとして用いられます。事件のあらましは以下の通りです。
排出事業者が、廃液中にヘキサメチレンテトラミン(HMT)が含まれていることを明確に伝えずに処理業者に委託。処理業者の行った中和では処理しきれず、HMTが残留したまま放流。下流の浄水場でHMTが塩素と反応し、ホルムアルデヒドが発生、関東の広範囲で断水が発生する事態となりました。
法律で指定されておらず、基準値がない物質であっても、処理業者に伝えない場合は適正処理ができず、大きなトラブルに発展する可能性があることがおわかりいただけると思います。そのため、PFOS含有廃棄物はWDS等を活用して、その情報を必ず処理業者に伝える必要があります。これは泡消火剤そのものだけではなく、泡消火剤を使用した場合に付着した布などの廃棄物も同様です。火災時などに泡消火剤を使用すれば、燃えてしまった様々な物がPFOS付着の廃棄物になります。
実際に処理する際の基準は??
PFOS等に関して特管の基準が無いことは処理業者側の許可も同様なので、普通産廃の許可があれば現在のところ受託自体は可能です。しかし、適正処理には厳しい「実質的な処理基準」があります。環境省による「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」では、確実に分解される方法で実施することとし、定義・要求事項を示しています。
詳細な内容をまとめると、概ね以下の定義・要求です。
表1:PFOS等の処理(分解処理の定義)
※廃水は、焼却施設から発生する時点であって、排水処理等の後に公共用水域等に排出される排水とは異なる。
上記の定義を満たす分解処理は現状焼却しか存在しないため焼却を前提とした要求事項が提示されています。
表2:分解処理の要求事項
図1:焼却炉の構造と廃水のイメージ
処理を委託する場合に留意する点があります。例えば、PFOS又は処理に伴い副生成されるフッ化水素は、強い腐食性と有害性を有する物質であり、労働安全衛生法、大気汚染防止法及び水質汚濁防止法等により、その取扱や排出濃度等について厳しい規制があります。そういった有害物質の安全対策が取られている業者に確認する必要があります。
このように、PFOS等含有廃棄物には厳しい「実質的な処理基準」があります。しかし、これは「技術的留意事項」であって、法の規制ではありません。とはいえ、環境省から「この方法で処理しないと、PFOS等は安全に処理できませんよ」と示されていますから、「法律で定められていないから他の処理方法でもOK」とは言えません。基準は守る必要があります。
現状、日本国内でこの基準をクリアできる処分場は非常に限られています。PCBやアスベストのように、専用の許可品目が用意されているわけではないので、許可証を見てもPFOS等が処理可能かどうかはわかりません。PFOS等含有廃棄物を委託する際には、委託先が技術基準を満たしているかどうか、処理実績は十分かなどをヒアリングします。細かな基準に関しすべてエビデンスを以てチェックするのは大変ですので、ヒアリングベースの確認になってしまうと思います。しっかりと基準を満たしている処理業者であれば、納得性のある説明をしてもらえるはずです。
PFOS含有廃棄物の定義は?
説明が前後しましたが、「そもそもPFOS等含有廃棄物とはなにか?」という定義についても考えておきます。よく聞かれるのは「濃度が低ければ不含有扱いにできますか?」という、濃度基準の定義です。このコラムをよくご覧いいただいている皆さんは既にお察しのことと思いますが、これも法律上の定義はありません。PCBやアスベストなどには、基準値がありますが、それは法律で指定された物質だからです。PFOS等は廃棄物処理法では明確な規制がないので、PFOS等含有廃棄物の定義も存在しません。
かなり厳しいことは承知した上で…、一つの目安として考えられるのは、廃酸・廃アルカリなら1μg/L、汚泥その他の廃棄物は5μg/kgが考えられます。これは、先述した分解処理後の廃水、残さの基準です。分解処理後と同等の含有率であれば、わざわざ特別な取り扱いをする必要はないという考え方です。
とはいえ、PFOS等を含有する規制前の消火剤は確実に上記濃度を大幅に上回る量を含みます。可能性として考えられるのは、意図せず混入・汚染してしまった場合でしょうか。例えば、タンク等でPFOS等含有の消火剤を保管していて、使用期限などの理由により新たな消火剤と入れ替えるケースです。この場合、タンクやポンプを十分に洗浄してから入れ替えないと、残留した古い消火剤の成分が残ってしまいます。PCBでも同じようなケースがありますね。
こうしたケースであれば、極微量のPFOS等が含まれる可能性があります。この場合は、含有率が上記の目安以下であればPFOS等含有とせずに処理しても問題ないと考えます。
ただし、以上は筆者が現状の法規制内容を検討した上で解釈した個人的見解です。詳細は、管轄する自治体に問い合わせ、判断を仰ぐことをお勧めします。
曖昧だからこそ、慎重に考えて行動を
PFOS等を巡る法規制は、今後整備が進む可能性が高いですが、現状では曖昧な部分が多く、スッキリしない内容だったのではないでしょうか。しかし、こうした部分こそ迂闊な判断で行動するのは危険です。明確に決められたものは、わかりやすい情報が出回っており判断も容易ですが、曖昧な情報こそ、綿密に情報を整理した上で、実際の影響度などを考えて、慎重に判断する必要があります。まずは、自社内で規制対象物があるかどうか、チェックするところから始めましょう。
弊社ではPFAS関連の様々なサポートを行っております。
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Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。