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移転や統合などの工場閉鎖で環境部門が注意すべきポイント
工場の移転や統合、閉鎖などはそう頻繁に起こるものではないですが、全く無いわけではありません。弊社もここ数年で何件かの相談を受けています。移転、統合、閉鎖は「現在稼働している工場が使用されなくなる」という点で共通しています。工場の操業停止から、解体までの一連の流れの中で、環境部門が注意するポイントは多岐にわたります。廃棄物処理法だけではなく、様々な法の規制を確認も…。
今回は、もし自社工場の移転、統合、閉鎖が決まり、今の工場を解体することになった場合、どのような点に気をつければよいか?それぞれのポイントと概要を実務面で紹介していきます。完全な工場閉鎖でなくとも、操業の縮小や事務所棟の建て直しなど、工場の一画を解体する場合にも、本コラムは参考にしていただけると思います。
目次
残置物の処分
工場設備や事務所など建屋を解体する際に、解体に伴って発生する廃棄物以外のものが残っている場合、「残置物」(ざんちぶつ:解体する建物の占有者などが残した不要物やゴミなど)とよばれます。残置物を発生させないために、元々発生していた廃棄物などを処分しておかなければなりません。
通常の産業廃棄物として排出しているものは、解体前に保管在庫含め一掃しておくのはもちろんですが、次のようなものも残置物になり得るので注意が必要です。
・排水処理施設の配管や沈殿槽などに堆積している汚泥
・設備に充填されている溶剤や潤滑油などの消耗品類
・PCB廃油や古い蛍光灯類、アスベスト、フロン、蓄電池など
これらを残したまま、解体業者に解体を委託することはできません。過去には、什器備品などをすべて残して「このまま全部重機で解体しちゃってよ!」というケースもあったようです。しかし、一度重機で解体してしまうと、分別難易度が一気に上がり、適正処理やリサイクルが困難になることから、残置物をまとめて解体することは禁止されています。解体工事の着手前に残置物はできる限り分別排出し、適正に処理することが求められています。
また、古い容器やドラム缶に入った溶剤なども発見されることもあります。自社が排出したものではなく、以前の建物占有者が残した古い残置物が見つかることも。建物内に残されたPCBや水銀、石綿、フロン、放射性物質などを含む不要物は、有害物質が極微量であっても特に注意する必要があります。工場跡地に建てられたマンションの地下室にPCB廃油の入ったドラム缶が発見されたケースもありました。
元請責任を押さえる
残置物が全て処理できたら、建物や設備の解体が始まります。建築物、工作物の解体に伴って発生する廃棄物は、元請責任といって元請業者が排出事業者となります。実際の作業は下請業者が行ったとしても、廃棄物の処理責任は元請業者が負います。また、発注者が排出事業者となることもできません。
一方、元請業者の責任だからといって、発注者は何も責任が無いわけではありません。「建設工事から生ずる廃棄物の適正処理について(通知)環廃産第110329004号」では「発注者の責務」として以下の項目を列挙しています。
1)建設工事を行う以前からの廃棄物(例えば、解体予定建築物中に残置された家具等の廃棄物)を適正に処理すること。
2)元請業者に行わせる事項については、設計図書に明示すること。
①建設廃棄物の処理方法
②処分場所等処理に関する条件
③建設廃棄物を再生処理施設に搬入する条件等
3)企画、設計段階において、建設廃棄物に関する以下の項目について積極的に推進すること。
①建設廃棄物の発生抑制
②現場で発生した建設廃棄物の再生利用
③再生資材の活用
4)積算上の取扱いにおいて適正な建設廃棄物の処理費を計上すること。
5)元請業者より、建設廃棄物の処理方法を記載した廃棄物処理計画書の提出をさせること。
6)工事中は建設廃棄物の処理が適正に行われているか注意を払うこと。
7)工事が終わった時は元請業者に報告させ、建設廃棄物が適正に処理されたことを確認する。また、建設廃棄物が放置されていないか注意を払うこと。
8)コンクリート、木材等の特定の建設資材を用いた建築物の解体工事等を発注する場合には、分別解体の計画等を都道府県知事に届け出るなど建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律に従うこと。
法的に元請業者が処理責任を負う場合でも、発注者は解体工事に関与し、計画段階で処理費用を計上させ、廃棄物処理計画書を提出させるといったことがあります。決して他人事ではないことがご理解いただけると思います。解体工事着工前の計画段階から、上記の環境省通知を理解した上で適切に関与しましょう。
フロン・アスベスト・PCB等の事前調査
解体工事の計画段階では、廃掃法以外の法律で規制されている内容についても、対象物がないかをチェックします。事前チェックが必要な対象物は多数ありますが、次の3つの項目について解説したいと思います。
フロン類の確認
フロン排出抑制法では、解体工事の前にフロン類が使用されている空調や冷蔵・冷凍機器(第一種特定製品)の有無を調査しなければなりません(図1)。元請業者は工事を請け負った際に、確認調査をする義務があり、発注者は調査に協力する義務があります。確認調査結果は元請業者から発注者に、書面と共に説明しなければならず、発注者は3年間の書面保存義務を負います。
実際に、発注者(管理者)の社員と建物解体業者がフロン排出抑制法違反で警視庁によって東京地検へ書類送致されたケースがあります。この令和3年11月9日の事案において、フロン類の引き渡しを発注者が他の者に委託したにもかかわらず、委託確認書を交付しなかったため法律違反となり30万円以下の罰金が適用されます。
※参考:フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律違反事件被疑者らの検挙について(情報提供)
図1 業務用の空調設備と冷凍冷蔵設備
アスベストの確認
建築物や工作物を解体・改造・補修する場合は、アスベスト(石綿)に関する事前調査が必要です。令和4年4月1日以降に着工する、解体・改修工事を対象として、石綿に関する事前調査結果を、労働基準監督署・自治体に報告する制度もすでに開始されています。解体や改修工事を行う際には、工事の規模、請負金額にかかわらず、事前に法令に基づくアスベスト使用の有無の調査「事前調査」を行う義務があります。
事前調査は元請の責任で実施しますが、発注者も事前調査が行われているかどうかを把握する必要があります。事前調査は「書面調査」・「現地での目視調査」・「試料採取分析」の3段階があります(図2)。書面調査と現地調査は必ず行いますが、試料採取分析は現地調査でもアスベストの有無が不明な場合に行います。
図2 大気規制の手引
(出典:北九州市)
調査結果は、作業開始の14日前までに書面で元請業者から発注者に説明する必要があります。もし、発注した工事で説明がなければ、元請業者に確認する必要がありますね。また、一定規模以上の工事を行う場合は“石綿の有無に関わらず”事前調査結果を元請業者が行政に報告しなければなりません。なお、一定規模以上とは次の条件に当てはまるものを指しています(表1)。
・建物改造、工作物の解体・改造・補修:請負金額の合計が100万円以上
こちらに関しては、できれば行政への届出が適切に行われているかを確認しておくと安心ですね。詳しくは厚労省リーフレットなどをご参照ください。
表1 事前調査結果の報告義務のある工事と対象範囲
(出典:厚労省リーフレット)
特定粉じん排出作業の届出
健康リスクの高いレベル1もしくはレベル2の建材を含む建物の工事等を行う際には、「特定粉じん排出作業の届出」を行います。届出は作業開始の14日前までに行います。この届出は発注者の義務です。このために、調査結果の確認などをしっかりと行わないといけません。元請業者から報告がなかったからといって、行政への届出を行っていないと違反になってしまいます。
また、レベル3建材を使用した建物を解体する場合などであっても、作業計画は作成しなければなりません。こちらは元請業者の義務です。レベル1~3の石綿含有建材例は図3のとおりです。
図3 アスベスト
(出典:環境省リーフレット)
PCB廃棄物の処理
PCB廃棄物は、元請業者の廃棄物ではなく発注者の責任で処理しなければなりません。それだけではなく、前述のとおりPCB特措法によってPCB廃棄物は原則として移動すら禁止されています。
事業場の移転などでやむを得ず移転する場合には移動が認められることもありますが、事前に保管場所移動計画書を提出しなければなりません。解体までに処理完了してしまうのが一番良いですが、間に合いそうになければ移動の手続きを行っておく必要があります。
どちらも、解体が始まってしまってからでは遅いので、事前の段取りが重要です。もちろん、「解体中に予期せずPCB廃棄物が発見された!」という事態にならないよう、前述の残置物を整理する際にPCB廃棄物の掘り起こし調査を行うことが理想です。業務用・施設用蛍光灯の古い安定器の例を図4に示します。
図4 業務用・施設用蛍光灯の安定器
(出典:経済産業省)
大気・水質・騒音・振動等、各種施設設廃止届
大気汚染防止法、水質汚濁防止法、騒音・振動防止法などでは、特定施設をはじめとして、設置届や設置許可など必要な施設が多く設定されています。例えば大気汚染防止法や水質汚濁防止法では、廃止から30日以内に届出なければならないと定められています。
土壌汚染対策法への対応
土壌汚染対策法(土対法)では、いくつかの条件に当てはまったときに、土壌の汚染状況調査が義務付けられます。そのうちの一つが「有害物質使用特定施設」を廃止したときです。有害物質使用特定施設とは、水質汚濁防止法の特定施設に該当し、有害物質を製造、使用などしている施設のことです。この施設を廃止したときは、廃止した日から120日以内に土壌汚染調査をします。
ただし、施設を廃止したときに、この調査を猶予されることがあります。その条件は、次の3つのいずれかに該当するときです。
(2) 小規模な工場・事業場において、事業用の建築物と工場・事業場の設置者の居住用の建築物が同一か、又は近接して設置され、かつ、当該居住用の建築物に当該設置者が居住し続ける場合
(3) 操業中の鉱山及びその附属施設の敷地又は鉱業権が消滅してから5年以内の鉱山等の敷地
工場自体が閉鎖されてしまう場合、上記の条件には当てはまらないので、必ず調査が必要になります。調査の結果「汚染がある」となった場合、都道府県知事に報告する義務があります。報告すると、都道府県知事は報告を受けた土地に対して「区域の指定」をします。これは、基本的に「形質変更時要届出区域」と「要措置区域」の2種類どちらかに指定されます。
「形質変更時要届出区域」と「要措置区域」の違い
「形質変更時要届出区域」は、簡単にいえば「すぐに対処はしなくていいけれど、今後工事するときなどは必ず届出してください」という区域です。周辺の状況等を考えて、健康被害などが出にくいと考えられる場合に「形質変更時要届出区域」に指定されます。ただちに影響はないので様子見…というイメージです。
一方、「要措置区域」は、その名のとおり措置が必要ということで、汚染の除去等の対応が必要な区域です。「形質変更時要届出区域」に比べて、周囲への影響度合いが大きいので、「早く対処してください」と言われている感じです。
これらの指定は、汚染がなくなったと判断されて「指定の解除」がされない限り、継続します。指定区域になると、長期的に管理しなければならないということですね。
「要措置区域」に指定されると汚染の除去にかかる時間がネックになります。除去方法によって必要な期間は様々ですが、どんな方法をとっても原則2年間のモニタリング期間があります。これは、除去工事が終了してから最低でも2年を経過しないとその土地が住宅地などに使えないということです。
土対法第9条には「要措置区域内においては、何人も、土地の形質の変更をしてはならない」と明記されています。例外は、汚染の除去を目的とする行為、日常管理レベルの軽易な行為、災害時の応急処置のみです。「形質変更時要届出区域」であれば、届出さえ行っておけば、土地はある程度自由に運用できます。
対して「要措置区域」は最低2年間全く工事ができなくなってしまいますので、土地所有者としてはかなりの痛手ですね…。そして、土壌汚染が発覚した際の、最も悩ましいところは、汚染の届出をするまで、「形質変更時要届出区域」と「要措置区域」のどちらに指定されるかわからない点です。
「形質変更時要届出区域」と「要措置区域」のどちらに指定されるかは、汚染の状況に加えて、周辺地域の地下水利用状況(井戸など、主に飲料用の取水があるかどうか)を加味して総合的に判断されます。また、対象区域がどちらに指定されるのかは、事前に問い合わせても、行政は原則情報開示をしません。
以前、ある不動産会社から汚染の疑いが強い土地を購入するかどうかという相談を受けたことがあります。この時も事前に行政から公式的な見解を得ることはできませんでした。この不動産会社は「要措置区域」に指定されることが分かっていれば、その土地は絶対に購入しないと言っていました。
「形質変更時要届出区域」か「要措置区域」かによって不動産の価値にも大きな影響を与える情報であるために、安易に非公式な判断を与えないようにしているのだと思われます。そもそも、届出される前から周辺地域の状況調査をする手間はかけられないですし、正式に届出がないと情報が足りずに判断できないという事情もありそうです。
平成22年の法改正による土壌汚染の自主調査
平成22年の法改定によって、汚染土地の所有者等は自主的に土壌汚染の調査をした結果を用いることにより、法に定める形質変更時要届出区域等に自主的に申請をすることができるようになり、現在まで多くの土地所有者が利用しています。
メリットとして、①土対法第4条に係る手続きの前に自主的な申請をすることで、調査に係る自主的なスケジュール管理が可能となります。また、②現場での対策措置の円滑化。(例として:要措置区域等と近接する汚染されていない場所に基準不適合土壌を一時保管する場合。 複数の飛び地で存在する要措置区域等を包括して封じ込めを行う場合。地下水汚染の拡大の防止等、要措置区域等から離れた位置で措置を実施する場合。)③汚染に関する情報が法律に準じた判断で明確になり、将来のトラブル発生リスクを低減できる可能性や土地取引時に不確定要素を排除できること等が期待できます。
長期目線でしっかりと準備を
このように、工場の移転や統合、閉鎖に伴う対応には、主要なものをご紹介しただけでも、非常に多岐に渡ることがお分かりいただけたかと思います。細かな部分で注意しなければならない点は、他にもたくさんあると思います。
早い段階から計画的に準備を行わないと、「解体工事着工時でも既存の廃棄物を搬出しきれない」「アスベストやフロンの調査・届出が完了しておらず、着工できない」といったトラブルにつながることも想定できます。
また、解体後の土地活用についても、土対法の規制を十分に把握しておかないと、「想定していた活用ができなかった」という事態にもなりかねません。工場の移転や統合、閉鎖の計画が立ち上がった時点で、長期目線の計画をしっかりと立てる必要がありますね
Takeshi Sato 環境情報ソリューショングループ マネージャー
セミナーインストラクターとして、数々のセミナーを担当。オンラインセミナーの実施やeラーニングシステムを使った動画コンテンツの制作にも注力する。コンテンツの企画から講師までを一貫して手掛け、通年80回以上の講師実績を持つ。 また、イーバリューの法令判断担当として、クライアントの法解釈に関する質問や相談に対応。対応件数は年間約1,000件に上る。法令知識だけでなく、省庁や管轄自治体等の行政への聞き取り調査も日常的に行っており、効果的な行政対応のノウハウを持つ。